トライアスロンへの道 その18

 

スタート前のセレモニーが終わると、一瞬静まった後にカウントダウンが始まった。

心臓がドキドキして飛び出しそうなのを隠すように、私は目を閉じてカウントを耳を凝らして聞いていた。

「3、2、1、スタート!」

いよいよ私にとって始めての本格的なトライアスロン大会が始まった。これから14時間後の制限時間を目指して私はゆっくり前に歩き出し、冷たくクラゲが沢山待つ海の中へ歩を進めた。

 

海に向って歩き出すと、一番後ろだと思っていた私の後ろにもまだ沢山に人がいた。水泳が得意じゃない人は私と同じように、とにかく邪魔にならないように一番後ろからスタートすることがせめてものマナーだと言いたげだった。

海に入ると足が着く場所でも周りの選手がすぐ泳ぐ態勢になり、腕を動かしゆっくりと水に浮かび前に進んだ。そして、少し進むと回りの選手達の手や足がバンバン当たってくる。

 

いや、当たるというよりは殴られたり蹴られたりしている、と言った方がいいほど頭や手の動きをさえぎられいきなりゴーグルがずれた。まだ足が着くところなのに、ゴーグルがずれただけで私はパニックになり、溺れたかのように手足をバタバタさせ焦ってゴーグルを直した。

しかし、トライアスロンの用のウエットスーツはかなり厚く作られており、実際は何もしなくても海には浮くのだ。だから、そんな無駄な力を使わなくてもゆっくりとゴーグルを直せるのにパニック状態だった私はスタート直後から不安なまま泳ぐ事になった。

 

この日のコースは増毛の港を出て、200mほど先の防波堤を越えてから1600mを1周する合計2000mのコースなので周回などはない。とにかくまっすぐ泳いで、クルっと回って戻ってくるだけなので、最初を除けば我々クラスの選手同士がぶつかるようなことはない。

後は目印のブイを目指してゆっくりゆっくりマイペースで泳ぐだけだが、やはり大量のクラゲは気になってしょうがない。沢山のクラゲを手でかき分けて泳ぐことになるので、はっきり言って注意のしようがないというのが現状だ。

 

そんな私も、マイペースで泳いでいるうちに呼吸や手のかきも安定してきた。やはりトライアスロン用のウエットスーツはかなり浮力があるので楽に泳げる。これなら何とか制限時間に間に合いそうだな、と思った折り返し付近で私の横を平泳ぎでスイスイ抜いていく選手がいた。

「ちょっと、嘘でしょ!」

と私は目を疑ったが、平泳ぎの選手はクロールで泳いでいる私を確実に抜いていった。平泳ぎの選手が早すぎるのかクロールの私が遅すぎるのか、そんなことを考えるほど私自身泳ぎに余裕が出てきたのか。

 

 

 

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