大きなエイドを過ぎて、この先はキロ7分以内のペースで走らないと20時30分のゴールには間に合わない。しかし、さっきのトイレで膝の状態がかなり悪いことを再確認してしまったので、何とか膝裏に負担が掛からないような走り方で前に進むしかない。

21.5kmの関門を過ぎてからは海岸の近くを走るのだが、辺りは徐々に暗くなり始めてきてレースも終盤に入っていることを実感する。しかも、さっきのエイドで腰に反射ベルトを付けられているためか、いよいよ暗い中を走るんだなぁという気持ちになってきた。

 

まさか自分がこんな遅い時間まで走るレースに出るなんて、その年の初めまでは考えもしなかった。前年に初めてフルマラソンで4時間を切り、ようやくランナーと言えるようになってきたばかりなのに、いきなり200キロを超えるトライアスロンに出るなんて無謀すぎる。

膝の痛みはどんどん酷くなっているし、午後6時を過ぎると気温も下がってきて体も冷えてきた。「もう嫌だ」と思いながらもとりあえず次のエイドまでは走ろう。そしてエイドでは少しゆっくり休もう。

そんなことを考えながらも次の関門は着々と近づいていた。

 

いろんな思いが交錯しながらも、気がつくと27.7kmの関門にたどり着いた。

タイム的にはさっきほどギリギリではないが、体はギリギリの状態だった。そんな時にさっきの関門にいたスイミングスクールの先生がいた。つらい時に知っている人の顔を見ることが、どんなに嬉しいことか改めて知った。

先生は「すごいよ、頑張って」と言ってくれた。短い言葉だが、その時の私には充分すぎる励ましだった。そんな元気をもらった私は、また「次のエイドまで頑張ろう」ということだけを考えて前に進んだ。

 

それから少しすると、雨がポツポツ降ってきた。

気温が下がってきた上に雨が降るなんて、ますます体は冷えてきて動きは固くなる。8月とはいえ、お盆を過ぎた北海道は秋とそう変わらない気温になる。体力も気力もどんどん失われつつあった。

そんな時、知り合いの人がコース上にいた。しかし、寒さと疲労で硬直した私はその声援にも素っ気無い反応しか出来ない。とにかく、ゴールしたい気持ちよりもレースを止めたい気持ちが上回りつつあり、もう制限時間のことなんて吹き飛んでいた。

 

次の35.8km関門も、通過したという記憶はない。ただ前に進むだけ、それしか頭にない。

冷たい雨は私の思考能力も、記憶さえも奪っていく怖い存在だということを改めて感じた。とはいえ、ゴールまで6キロもある段階では制限時間の14時間に間に合うかどうか判断が出来ない。その後は距離表示もほとんど分らないまま、とにかく前に進むというより前に動くことしか出来なかった。

 

真っ暗で雨がシトシトと降る中で思うように体が動かなくなっていた私は、正直言ってどうでもよくなっていた。

ゴールしようがしまいが、制限時間に間に合わなくてもいいからとにかくこのレースが終わって欲しい。そう思っていた。